申し訳ございません

質問

接客で失敗をしてしまい,「申し訳ございません。」と謝ったら,「その言い方は間違っているから,正しい日本語で謝りなさい。」と,さらに叱られてしまいました。どこをどう直せばよいですか。

回答

これは「とんでもございません。」は間違いで,「とんでもないことでございます。」と言い直すべきだ,という話と同じです。「とんでもない」「申し訳ない」という大きな一つの言葉だから,「ない」の部分だけを自動的に「ありません」や「ございません」にしてはいけない,と考えているのです。

さて,言葉をもって謝る,という行為(言語行動)は,あくまでも穏やかで冷静な精神状態では,できないのではないでしょうか。ある程度,慌てたり,感情の起伏を伴ったりするからこそ,真摯な謝罪の意思が相手に伝わるのです。その際,この場ではどの言い方が正しく,どの言い方は禁忌だ,と立ち止まって考えているようでは,本気で謝る態度や言葉にならないかもしれません。

確かに,「だ・である」(常体)はもちろんのこと,「です・ます」(敬体)よりも,文末に「ございます」を付ける,いわば「ございます」文体の方が,敬意度は高いと感じられます。ここでも「申し訳ない」より「申し訳ありません」,さらにそれより「申し訳ございません」になった方が,丁寧の度合は増しています。自然な発話という点からすれば,思わず「申し訳ございません。」と謝ってしまった,という現実は多いのではないでしょうか。

生涯学習や面接の訓練などで,必須項目や到達目標を立てたり,暗記を課したりして,「正しい日本語」を身につけたい,という人は大勢います。しかし,この謝罪という場面を,言語行動や言語意識として一歩離れて眺めてみれば,≪どういうわけだか≫,(考え方次第では,理屈には合わないかもしれない)その言い方が,≪かなりひろく通用してしまっている≫ということはあるものです。そちらの方が,大勢の人は納得し,その場も丸く収まったように思われませんか。つまりこれは,言語がしばしば,その恣意性と社会性という性質を発揮してしまうので,これ以上議論を尽くしても仕方がない,とさえ思われる言語現象かもしれません。「正しい」より,「ふさわしい」の方が勝る,というわけです。

山田貞雄 (2015.4.27)