「元旦」

質問

「『元旦』の『旦』という漢字は,御来光をあらわすので,『元旦』は朝だけ,あるいは午前中だけを指す。」と聞きました。また「年内に用意する賀状の日付に『元旦』と書くのはおかしい。」と読んだこともありますが,そうでしょうか。

回答

「『元旦』の『旦』の最後の画は水平線を意味するのか。」という質問もありました。漢字文化発祥の中国では,「一」とは,簡単にいえば「天地の分かれるところ。ものの初め。」という意味であるといいます。水平線なのか地平線なのかを区別するといった,科学的な概念ではないのですから,「旦」は海の上にあらわれた御来光だ,と具体的に限定してしまう理由や必然は見あたりません。漢字「旦」は,「(夜が)あける」「あさ」「日(太陽のこと)」の意味でした。

日本では,平安時代に、「あかつき」「あきらか(なり)」のほか,現代でも用いる多義的な和語「あした」といった訓よみが字書にみられます。中世には,「ついたち」という訓もみえます。これらの和語の概念と密接に結びついた漢字「旦」は,文脈の中で適宜に字訓とその意味をあらわすのだと,みなしてやればよいでしょう。

ですから,熟語「元旦」を「元日の朝」の意とも「元日」の意とも解してきたということは,伝承としての事実です。朝だから午前中まで,といった近代的な時間感覚や,何日の何時から何時まで,などと限定したり定義したりするように,あらためて意訳したり解釈する,そういう理由や必然も見あたりません。

さらに賀状を年内に用意して,本来なら新たな気持ちで元日に直にすべき御挨拶に代えよう,という文化習慣からすれば,年賀状の日付は,文面を書いた日付を正確にあらわすものではなくても,許されそうなものです。むしろ「新鮮で厳粛な一年の始まりにあたって,あらたまって大切なあなたに御挨拶を申しあげます。」という趣旨が大事なのでしょう。それを,賀状という形や賀詞という言葉に託している,と捉えてみれば,いろいろな習慣や表現をも,相当許容できるのではないか,と思われます。

山田貞雄(2012.12.26)

参考
『大字源』 (角川書店 1992)
『新明解 現代漢和辞典』 (三省堂出版 2012)